役者対談⑧日下部そうさん
『終わってないし』~陽一役~
南出:お疲れさまでした。ありがとうございました。
森田:本当にありがとうございました。お疲れさまでした!
日下部:こちらこそありがとうございました!お疲れ様でした!
南出:旗揚げ公演の『青いプロペラ』の時、座組のみんなが僕の実家に来てくださって、夜、だらだらの雑魚寝飲みの中、日下部さんが「海風※」を読んでくださったんですよね。思い返せばあれが、すべてのきっかけですよね。あの頃たぶんまだ、二回目公演なんて、殆ど白紙だったはず。
※海風…南出謙吾が大阪で活動中に出版した同人戯曲集。『終わってなし』を収録。
日下部:そうですね。かなり酔っ払っているなか読んでました。
森田:前回に続いて、ご一緒出来てとても嬉しかったです。楽しんで頂けていたら、、と思うのですが。
日下部:こちらこそ続けて声をかけて頂きほんとありがとうございました。もちろん楽しませていただきました!
南出:もはや、そうさんは、らまのだになくてはならない存在になってます。勝手に。僕の戯曲の手癖も随分馴染んできたと思いますが、演じてみて何か、コツ?というか、乗りこなしかた?みたいなのって、あるんですか?
日下部:いやいや、まだまだで今回も非常に苦労しました。コツですか〜。う〜ん、なんだろう、、、
日下部:…やばい、全然わかんない。稽古場に持ち込むものが自分は極端に少ないというか、ほぼ無くて、それがいいのかな?
森田:いや、本当に、存在が?空気が?、らまのだの作品に不可欠って思うんです。勝手に。南出戯曲にピッタリくるなと思ってます。それは、旗揚げの時に声をかけさせて頂いた時からで。だから、これからもご一緒できたらいいなと願ってます。
日下部:南出さんの描く男の人はダメダメでそれが自分には人間らしくてとても好きなんです。
南出:ありがとうございます!前も別の対談で話しましたが、ダメ人間の引き出しだけはそこそこ豊富やとおもってます!経験上・・・
南出:じゃ、そうさんに惚れるポイントをあげてみよー!はい、森田さんから。僕も言うから。
森田:はぁ??何、それ。笑。本当にテレるけど、そりゃ、いっぱいありますよ。
森田:まずねぇー、
森田:日下部さんは相手や状況に過不足なく反応するんです。それって、すごいなぁ〜と思います。さっき持ち込むものが少ないって仰っていたけど、全てにウソがなくて、そこがホントに好きです。 だから、「あ、分かってないんだな」ってこともちゃんと伝わってきます。
日下部:そう!わかってないことだらけなんです。だから稽古でじっくり相手してもらって、もう感謝です。
森田:でも、それをわかった風にしないのがまたいいところだと思います。分からないのを分からないままにしてくださるから。俳優って、分からないことっていろいろ足したり、誤魔化したりしちゃいがちだけど、日下部さんはそれがないんです。だから、ちゃんと真実で。それがいい。
南出:淡白さと緻密さかな。そのくせ、結構な変人!ってところ。すごい二律背反が押し込まれているのが好きです。
南出:そうさんは、凄くコントロールできているようにみえるんです。まるで熟練の操り人形みたいに、無表情に体や心や声を扱ってるように。これは、ほんとうは、好みじゃないのです。危うくて安定していないものを見て緊張したいから。安定しているのなんて本当はみたくない。 でも、なぜかそうさんには惹き寄せられる。 たぶんもの凄くきめ細かく操ってるから、血の通った精密機械みたいで、芸術性すら感じる。 きっと本人は真っ向から否定するかもしれないけれど、そんな風に見えるんです。
森田:…南出さん、本当に日下部さん好きなんですね。でも、私たち二人で日下部さん褒め合ってても、日下部さん喋れないですよ、せっかくの対談なのに。
日下部:いや、自分も言葉をまとめるのが苦手で。
森田:取り留めなくていいですよ。いろいろ聞きたいです。
日下部:じゃあ、今回の陽一についてですが、これはもう自分に近いものが多すぎて逆に大変でした。
森田:近すぎて大変ってどうゆうことですか?
日下部:客観的に見れないことと、あと自分で見たくないとこは隠そうとしてしまうんです。
南出:でもその見たくない所が、一番演劇的で、刺激のある部分だったりするんですよね。
日下部:そうなんですよね。随分芝居やってるけど、いつまでたっても恥ずかしさはあります。
森田:さっきの惚れるポイントじゃないけど、日下部さんの素晴らしいところって、しっかり自分を使うところだと思うんです。自分の感覚とかを隠したり、誤魔化したりしないで、ちゃんとまるごと飛び込むのって、すごく怖いことなのに。でも、自分に近いものになるとそれは怖さを増すんですね。
日下部:怖いし、見せたくない。役者としてダメだなぁと思いました。
森田:今回、小屋に入ってから、日下部さんの芝居で本当にすっごく良かった瞬間?があって。
日下部:お!
森田:ゲネの時なんですけど、最後、洋子に「だから、もう一回一緒に住みたいんだけど、ダメかな」って言い出すまでのところ。本当に本当にすっごくよくて、もう、日下部そうは世界一だぁ~!と思いました。
日下部:恐縮です。でも、自分もあの時はすごくよかったなぁと感じました。 でも、どうやってああなったのかわからなくて、その後は迷いまくってました。
森田:あの日までは陽一って受け身なのかなと思っていたのですが、あの時はすごく相手に向かう力がすごく強くて、陽一ってこんなに考えていたんだと驚かされました。
南出:そう、あぁ見えて、陽一は能動的に行動してる。
森田:こんなこと、お金を頂いている以上、言ってはいけないことかもしれないけど。あれをお客様に見て頂きたかった。私もどうやったらあそこに導けるんだろってずっとずっと考えてました。
日下部:ラストのシーンは全然自分をコントロールできてなくて、でもあそこはその方がよいのかなと思って、出てくるものに従っておりました。
日下部:でもなぁ、ああいうのをコントロールしながら、はみ出していけたらいいなと思うのです。
森田:はみ出すとか溢れるとか、そういう瞬間がいいですよねー。たまらん。
日下部:でもはみ出そうとしたら違うものになっちゃうんだよね。
森田:そーゆー風にうまくいく時って絶対一人じゃないですからね。相手と一緒に波乗りするみたいな。洋子役の中村美貴さんも毎回迷っていろいろ試してくださってったけど、あの日はとってもお互いがよかったように思います。
森田:交わり過ぎてなくて、自分に向けた矢印と相手に向いたそれが絶妙だった気がします。とは言え、あそこは曖昧でよかったように思います。 俳優が理屈で整理をつけるのは簡単だけど、実際整理なんかつくような状況じゃないし、内容じゃないですから。
日下部:曖昧って難しいですよね。観る方に曖昧を伝えてもやる方は明確じゃないとなと思ってます。あ、これ確か黒沢清監督の受け売りです。
森田:曖昧って、余白の量かなとも思うんですが、違うかな?相手とか状況とかによって左右される余白をちゃんと持っておくというか。もちろん台本もあるし、結末も決まってるけど、どこをどうやって進むかはその日、その場限りだと思うので。
日下部:あ、全然話し変わるのですが、毎回やらせてもらう役の人物がどんな音楽を聴いてるのか想像するのが好きで、テーマ曲的なものを決めるのですが、今回は決められなかったのが悔やまれます。 陽一ってどんな音楽が好きだと思いますか?
森田:うーん。どんなのだろう。劇中に陽一の部屋のスピーカーから音楽が流れてくるところがあったけど、どれもしっくり来なくて、わたしも最後までかなり苦労しました。 ちなみに、『青いプロペラ』の小柳くんのテーマ曲はなんだったのですか??
日下部:ミスチル!!今回は結局ミニマル曲で脳内トリップするのが世界観と合ってるかなぁと思って、そんなのを本番前聴いてました。RADWIMPSとか好きかもしれない、と思ったけど、いやでも陽一はメジャーなものを否定しそうだしなんだろなぁと悩んでました。
日下部:音楽、今回すごく好きできしたよ!
森田:ありがたい!本当に作って下さったまりちゃんに感謝です。わたし、鉄骨の転換のところもとても好きでした。照明もかっこよくて。それと『天気予報を見ない派』の雨のところも。最後の最後にくる‘ピシャン’がいいんだよ〜
日下部:雨いいよね〜
森田:単音と和音とね。なんか、儚くて、脆くて。
森田:南出さん、今後は日下部さんにどんな人物をやって頂きたいですか?
南出:次は。
森田:うんうん!あ、次?12月のこと??
南出:そう。一言で言うなら大人。とても大人。落ち着いた紳士だけど、深い闇のある。でも、やっぱりそれは見えず、ただ、一人で抱えて、飲み込んでいる人。 ほんの少しの瞬間だけ垣間見える。人望の厚い人。そんな感じです。
日下部:うわーー、楽しみです!
南出:僕もです。
森田:ドキドキします。今回かなりの若返りを図りましたのでね。
日下部:そう若返り。笑
森田:だけど、稽古始めから考えたら、本当にリアルに若返りましたよね。芝居ってすごいなぁ〜!あ、いや、これは失礼でした。ごめんなさいっ!!いつも、素敵です♡
南出:いつも、素敵です♡
日下部:いえいえ。重力には勝てないです。
森田:次回は南出謙吾初の当て書き台本ですね。
南出:今回みたいに男、女でなく、ちょっとした、経済戯曲みたいな。 半沢直樹の熱くない版?みたいな。
日下部:半沢直樹未見なので見てみます!
森田:私も未見だ。見ねば!
森田:では、また会う日まで暫しのお別れですが。
日下部:はい!
森田:らまのだも微力ながら体力と鋭気を養います。
日下部:自分も次へ向けて養います。 ありがとうございました!
南出:ありがとうございました~!
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